Kinnaleth Vongchanh
カンボジア工科大学
Dr. Lecturer-Researcher and Head of the Thermal Laboratory
Department of Industrial and Mechanical Engineering / Research and Innovation Center
2023年度 日立財団アジアイノベーションアワード「優秀賞」受賞者
私はカンボジア工科大学の講師・研究者として、エネルギー効率やエネルギー政策、バイオマスブリケットによる廃棄物エネルギー化、暑熱ストレス対策、太陽熱乾燥技術、そしてパッシブクーリング設計に関する研究を行っています。これらの研究テーマはすべて、エネルギー需要の増大、活用先のない農業廃棄物、気候変動に伴う暑さの深刻化など、カンボジアが直面する現実的な課題から生まれています。海外の研究パートナーと連携しながら、研究成果を政策立案や実社会で活用できる形へとつなげています。私にとって何よりの喜びは、研究成果が研究室の中にとどまらず、本当に必要としている人々のもとへ届くことです。
2007年の日本留学で研究の進め方を学び、日立財団アジアイノベーションアワードを通じて、研究が社会にもたらす可能性を知りました。このアワードは、過去の成果に対する評価にとどまりません。私自身や研究チームへの信頼と自信を高めるとともに、私たちが開発したバイオマスブリケットに研究室の枠を超えた社会的な信用を与えてくれました。その一方で、研究成果を事業化へとつなげる新たな挑戦も始まりました。予算の制約やパートナーとの投資戦略など、社会実装には実質的な課題が伴います。賞は扉を開いてくれますが、その先へと歩みを進める努力は今も毎日続いています。
アワード受賞後、私たちのバイオマスブリケット研究は、概念実証の段階から製品化に向けた段階へと進みました。配合や製造プロセスの改良を重ね、燃料性能や排出ガスの評価を行うとともに、学生や技術者への研修も実施してきました。その結果、これまで価値を見いだされていなかった廃棄物が、家庭用・産業用双方で利用可能な信頼性の高い燃料になり得ることを確認しました。また、この研究はさらに発展し、エネルギー効率の向上や国家エネルギー政策に関する取り組みとも連携するようになりました。また、バイオマスを学術的な研究テーマにとどまらず、実際のビジネス機会として捉えるパートナーからも高い関心が寄せられています。
私にとって研究成果の発見そのものが最終目標ではありません。長年の研究の成果が、社会の役に立つ形になることを常にめざしています。私たちのバイオマスブリケットが実際に社会で利用される製品となること、そしてその歩みが、若い研究者たちに「研究成果は市場や社会へ届けることができる」という実例を示すことを願っています。現在は事業化を最優先課題としており、この技術を広く普及させるために、さまざまな関係者や投資家との連携強化に取り組んでいます。研究室で生まれた成果を、カンボジア全土で日常的に使われる燃料へと育てていきたいと考えています。
北海道札幌市で過ごした冬の経験は、今でも忘れられません。ある年、1週間にわたる大雪の中で、私は大学の研究室に一人残り、毎日16時間から20時間に及ぶ実験を続けました。研究室で寝泊まりし、食事をとり、計測機器に囲まれながら、窓の外に降り積もる雪を眺めていました。当時、私は大学で唯一のラオス人女性研究者でした。とても過酷で、ときには孤独を感じることもありました。しかし、その努力の結果、必要なデータを無事に取得することができました。この経験を通じて、「研究は快適さよりも粘り強さによって報われる」ということを学び、その教訓は今もすべての研究活動の支えとなっています。
「おはようございます」は日本で毎朝最初に口にした言葉であり、「ありがとうございます」は最もよく使った言葉です。どちらも日本の敬意や思いやりの文化を感じさせる大切な言葉です。好きな場所は何と言っても札幌です。博士課程の研究生活を過ごした北海道大学があり、2008年以降、一度も訪れることができていませんが、今でも特別な思い出の地です。もう一つ大切な場所が横浜です。東京を訪れる際は、できる限り足を運ぶようにしています。日本語も日本の思い出の場所も、若き日の自分を今も鮮やかによみがえらせてくれます。
日立財団、そして共に受賞した皆さまに、心より感謝申し上げます。このアワードは単なる賞ではありません。私たちの研究や活動に対する信頼の証であり、世界に向けてその価値を示してくれる存在です。私は、このコミュニティが受賞の場にとどまらず、互いの経験を共有し、国や専門分野を超えた協力関係を築く場となることを願っています。私たちは特別な出発点を共有しています。そのつながりを生かし、アジア地域の未来につながる価値を共に創り出していきましょう。
熱工学研究室における日々の研究から「日立財団アジアイノベーションアワード」の受賞、そしてこれまでの様々な活動風景まで、研究の歩みをご紹介します。
